酒を飲むだけのために遠征していいのだろうか。
酒まつりや蔵見学ではない。ただ大阪情緒のもとで飲んだくれたいのだ。できれば切符一枚あるなら大人らしく知的に使いたいものだが。…そう半年以上葛藤してきたがこの度ついに理性が負けて出かけることにした。
ちょっと大阪まで飲みに行ってきます
都内朝6時の鈍行列車に乗り、買い食いしながら向かう。2泊3日ただ欲に任せて飲み食いする旅が始まった
9時頃、静岡
おでん「まるしま」。赤飯はテイクアウトして時間が空いたときに食べた
朝日を浴びる赤飯
静岡から2駅、用宗「神尾きんつば」
名物のきんつばを食べたいところ、代わりにボリュームあるじゃがいもおでんを選んだ。前回訪れた時にいも10個くらい買うお客を見て自分も食べてみたかったのだ
味噌だれがみたらしくらい甘いのはきんつば屋だからだろうか。これが美味しくて、今後みたらしは団子でなくおでんにかけたいと思った
撮らずにはいられない富士山
浜名湖競艇の入口にある居酒屋「かちどき」へ行ったら休みで引き返した。閑散とした駅につがいのハトがいて、通りすがりのおじさんが“イチャイチャしやがって”と呟いていった
安城の惣菜屋「玉木屋」では味噌系の品を買い込んだ。自分は愛知の味噌も好きだ
店内で写真を撮らせてもらっていると、“そんな茶色いのばかりでいいの?”と言われた
茶色いほどいいんです。こんにゃくカツ串がヘルシーと思われたが、あまりの大きさに油と味噌の甘さがガツンと来た
大垣で乗り換えの待ち時間が発生するも、もう食べれない。ここは土産用に“つけてみそかけてみそ”少量パックを探すことにしたが見付からず。時刻は14時。大垣から大阪は真っ直ぐ向かい腹を休めた。
夕暮れ。
ヤッター大阪ついた。酒場巡り1軒目は京橋「七津屋」だ
以前“アジフライをおでん出汁で”と注文するお客を見てからずっと試してみたかった。うん旨い。それを叶えたのも束の間、“角煮を出汁で”という声が聞こえて次回の課題にすることにした
2軒目「京屋本店」は食堂の雰囲気で、メニューが絞れず多めの注文となった
土手焼きとレバ焼きとおでんを食べ[自分の使命・おでん]を思い出してまた七津屋へ戻る
今回の旅ではおでんも食べたかったのだった。主にちくわとこんにゃくを調査している
七津屋は浅めで出汁が澄んでいるように思う。これは1軒目のうちに入れるとしよう
3軒目、天満「銀座屋」でスパサラ
メニューにおでんがなかったけれど具にちくわが入っていて救い
夜も更け、宿泊地京都へ移動した。チェックイン後は「BOOKS ENDO」で1日を締める
京都だけど本屋だけど4軒目にしよう。大阪おでんで豆腐といえば湯豆腐状をよく見るがここでは焼き豆腐。ちくわ品切れ、しらたきサービス
2日目。
宿の主人の言葉に朝から感涙して出発
その時の記事■京都の宿の中国のお好み焼き屋に泣いた - きっぷ2000円 酒300円
河井さんは陶芸家
登窯の中はアドベンチャー
芸術鑑賞で背徳感薄めたところで飲みに向かうが、途中の喫茶店のショーケースが今日これからを暗示するかのようだった。陶芸品、ガラスの女、倒れた酒…
ヤッター新世界ついた。酒場巡り5軒目はおでんの種類豊富な「のんきや」だ
隣席のおばちゃんがしきりにチンゲン菜を薦めてくれたが豆苗とくずきりに
6軒目「平野屋」ではいもに心奪われおでん食べず
もう元々欲に任せた旅だからいいじゃないか。焼酎などお得で、天孫降臨といもで520円
7軒目「酒の穴」。七津屋風にイワシフライに出汁をかけてもらったら“そんなんオネーちゃんが初めてやわ”と言われた。大阪スタイルかと思っていたが
隣席のおばちゃんが“その服にはピンクのスカートがええよ”とアドバイスをくれた
8軒目「さんかく」のこんにゃくは四角だった
おでんをカットしてくれるのは店のママが“女の子でも食べやすいように”だって
ここが酒場巡りの終着となるのだがちょっとした人間模様を見た。
自分は隣席のおじさん、齢80と楽しく話していたけれど時々叱られた。“東京の奴は中身がない、文学的でない”とか
確かに大阪に飲むために来てるし、おかしいことは自覚している
80おじさんが話の節々に身内の高学歴をちらつかせるので、すごいすごいと相槌したら、“すごくない”と叱られた。しかし自分がアホだから尊敬してしまうのだと答えると、“自分自身のことを尊敬しなアカン!何を言うとるんや!”と言われたことには若干の感動を覚えた。
本人は叱ったつもりらしいが、自分は朝から琴線が緩んでいるのだ。80おじさんは自らの考えを“俺なりの宗教。これが新世界”と言った
“自分を大事にしなアカン!自分がトップ!”
※ここから先の写真は河井寛次郎記念館
わりと感銘を受けた自分。悟っているのですね、と言うと“悟りゆうもんは…”と語られた。息子は高野山へ修行に行ったけれど僧でなく公務員のお偉いさんになったそうだ
素直に尊敬に値する身内の方々
80おじさんは店のママのことは尊敬しているらしい。“生きるということは楽しいことやで”と言われた所で話は一段落し、他のお客ともおしゃべりした
有り難いお話でした
手洗いに行ったり新しいお客が入ってきたり。そうしているうちに気付くとなんと、80おじさんは別のおじさんとけんかしていた
胸ぐらつかみ合っている
原因はどこぞの店の子とデートが叶わなかった別おじさんが、80おじさんへ“おまえも(私に)フラレた”のように言ったことらしい。
“もうやめとき!”ママの声が何度も響く。
次第にけんかは鎮静し別おじさんは帰ったが、80おじさんは興奮したままだ
登窯
“アイツ前から嫌いやねん!”云々。
…ところが急に治まった。
80おじさんは急に我に返って言った。
“まだおれ人間でけてないわ”
反省し始めた
“アカン、ぷっつん切れちゃった。ちょっと酔うちゃった…”
威厳を放っていたおじさんが可愛い発言をする。和む店内
一騒動の後に笑い。旅行者にとってはまるで新喜劇
久々に学生紛争の青春時代に返った思いをしたそうだ。可愛らしく“ごめんごめん”と言い、ママは“気ぃ悪くせんとな”と言った。
「これが新世界」。80おじさんは身を呈して教えてくれたのだった。
このような短時間で自分を省みることができる80おじさんはやはりデキた人間だし、ママとまわりのお客の温かさたるや。
今回ただ大阪へ飲むために行って、新世界という劇場を体感することができました。
さんかくの常連客の特権で、向かいの蕎麦屋の天ぷらを出前してもらえた。常連客は食べ方について、“出汁かけやん。これが関西やから”と言うが、アジフライ含む串カツの類には“誰が出汁で食うねん!”と言われた